こんにちは。shiroshiroです。
本日のお題はまじめなお題です。
ここ数日はバイオに関する一般的なお話でしたが、またそーせいHeptaresのコアなところに触れていきます。
Hot Topics: The atlas of aminergic GPCR mutagenesis
ホットトピックス:アミン作動性GPCRの変異誘発のアトラス
https://blog.guidetopharmacology.org/2019/07/15/hot-topics-the-atlas-of-aminergic-gpcr-mutagenesis/
Comments by Chris De Graaf (@Chris_de_Graaf), Director Computation Chemistry, Sosei Heptares.
アトラスという言葉の解釈が難しいですが…
アトラスはギリシャ神話で罰で天空を背負うことになった巨人の名です。その派生から地図帳、図解書、解剖図録。
支えるという意味で、解剖学上、第一頸椎(けいつい)のこともatlasと言います。この場合は地図帳が一番正しいかもしれません。
そもそもこの記事は何の記事なのかと言いますと、HeptaresのChris de Graaf氏(師匠)が、”Guide to Pharmacology(薬理学ガイド)"というIUPHAR(国際基礎臨床薬理連合:International Union of Basic and Clinical Pharmacology)とBPS(英国薬理学会:British Pharmacological Society)の合弁事業に寄稿した記事です。
肝心のサイトはすっごくブログ調で親近感感じます。本元の場所はこっちですのでお間違えなきようお願いします。
見出し
・アミン作動性って何?
・34のGPCRと6692の変異情報を集めたよ(しれっと)
・結合を予測する
アミン作動性って何?
そもそもこの記事は論文ではないですので、学術的に新しいことを発表するものではありません。
しかしながら、ベースとなるものがあります。
そーせい 論文
Aminergic GPCR–Ligand Interactions: A Chemical and Structural Map of Receptor Mutation Data
“アミン作用性GPCRとリガンドの相互作用:受容体変異データの科学・構造マップ”
Journal of Med.Chem.誌4月号にHepからChris de Graaf氏がLast Authorで登場。1stは蘭アムステルダム大。 https://t.co/aaCCJbBRYH— Shiroshiro(リハビリ中) (@Shiroshiro4565) May 10, 2019
即終わらせてしまうのであれば、こちらのツイートを読むのもありですが、もう少し踏み込みましょう。
まず、アミン作動性GPCRというのは、アミン系分子がリガンドとなる受容体のことです。
アミン系分子ってなによ、という話ですが、
・アセチルコリン(M1)
・アドレナリン
・ドーパミン
・ヒスタミン
・セロトニン
・オクトパミン
・トレーサミン
という具合の各種リガンドです。全体のなかのClass A GPCRに属していますが、その中の一部がアミン(Amine)系です。(下図)
これらは様々な疾患において重要な役割を果たすので、主要な創薬標的クラスになっています。
アミン作動性GPCRファミリーの受容体は、これまでに500以上の承認薬物を開発してきました。
そして、60のGPCRサブタイプから300以上の結晶構造を決定してきました。
しかし、師、曰く、それでも既知の受容体ーリガンド結合のほんの断片にすぎないというのです。
きびしい。
34のGPCRと6692の変異情報を集めたよ(しれっと)
そんな辛辣な師は、つぎにSite-Directed Mutagenesis(SDM:部位特異的突然変異誘発)の話をします。
これはStaR®技術で言えば、部分的に遺伝子変異を起こし、タンパク質の熱安定性を高める話ですね。
SDM研究は、結晶化されてないリガンドケモタイプ(微妙に違う形で同じ働きをするリガンド)に対して、その結晶構造情報を補完することができます。
そしてGPCRコミュニティ全体のモデリングをする場合の課題は、「突然変異とSAR(Structure Activity Relationships:構造活性相関)データを慎重に組み合わせることで最良のモデルを構築されうるか」ということを示しています。
でもそういった、予測統合分析はまだデータが不十分だそうです。
(ここで背景終了)
そして、そんな中Heptaresはアムステルダム自由大学、ポーランド科学アカデミー、コペンハーゲン大学と協力して、「突然変異実験からくる540のリガンドの領域をカバーしつつ、8種のサブタイプ34個のアミン系GPCRより6,692個の遺伝子変異データを集めた」そうです。
そしてこのデータは、「異なるGPCRサブタイプとGPCRサブファミリーにおいて、変異による影響を比較できるようアミン系GPCR結晶の残基の位置にすべてマッピングを行った」そうです。
そして、マッピングの結果、突然変異の影響(Mutation effect)は4つのカテゴリーに分類されたと。
・影響の増加
・影響なし
・影響の減少
・影響の消滅
(影響(effect)って何?データはマップで示されるとありますが、本文見れず不明。)
…ここまででどう表現すればいいでしょうか。
34個のアミン系GPCRに対して、大量のリガンドで試してデータ集めて、残基の位置ごと4種でマッピングしたよ。
ぐらいにお願いします。
結合を予測する
師の寄稿はまだまだ続きます。
集めたデータをもとに、まだ結晶化されていないものに対して、著者は突然変異効果を合理化するためのinteraction fingerprint approach(相互作用フィンガープリント法)と、combined docking(複合ドッキング:タンパク質と複数の化合物によるドッキングシミュレーション)を用いた結合予測様式を提供する。
新しい単語です。これは師の2016年の論文があるので、そこから引っ張りましょう。
Molecular interaction fingerprint approaches for GPCR drug discovery
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1471489216300674
interaction fingerprint approach(相互作用フィンガープリント法)というのは、簡単に言ってしまうと、3次元に描かれる受容体・リガンド結合を、絵的には2次元に、機械学習的には1次元(0,1表現)に落とし込む話です。
上が論文中の図式ですが、左:3次元構造 → 中央左:化合物、相互作用、ファーマコフォア様式 → 中央右:機械学習 → 右:スクリーニング
という要領で、最後は計算に落とし込むという流れですね。
この予測結合様式によって、各受容体サブファミリーについて、相互作用の構造決定因子、主ポケット、副ポケット、など様々な項目に対しての考察が提供されるそうです。
もうだいぶ筆者が疲れてきました。
最後に、師らは本文で、「リガンド結合の決定基への洞察を提供するような、異なる受容体に渡った同じリガンドの突然変異効果について」も論じているそうです。つまり、リガンドが本命でない受容体に結合するときの影響ですかね。
そして、「いくつかのアプリケーションの概要。アミン作動性GPCR用のリガンド設計のための突然変異データの仕様の可能性と限界について説明する」だそうです。本文が見れないのが残念ですね。
終わりにしましょう。
この記事を見たら、"アミン系受容体34個は、すべて創薬ターゲットの中にもう入ってるの?"と感じてしまいますが、実際はどうでしょう。
あと、ここ最近でてきた超難解な資料について、IFPの意味がようやく理解できてきました。ゴールには程遠いですけどね。
師の論文は大変厳しいです。
おわり