こんにちは。shiroshiroです。
昨日とあるニュースが入ってきました。ヒト用医薬品ではなく、動物用医薬品に関してのお話です。
2019/8/20 21:39 日本経済新聞
バイエル、米社に動物薬事業を8000億円で売却
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO48787760Q9A820C1TJ2000/
独バイエル社が、自社の動物薬事業を他社に売却しました。
タイトル内の"米社"というのは、米エランコ・アニマルヘルス(Elanco Animal Health Inc.)(参考:日本法人HP)のことです。
このエランコという企業ですが、日本のラクオリア創薬の上市薬ガリプラント(Galliprant®)とエンタイス(Entyce®)の導出先でもあります。
なので、日本のバイオ企業に少なからず関係してくるお話です。
これまで当ブログではヒト用医薬品がメインですが、よい機会ですので本日は動物用医薬品の世界に触れていきましょう。
見出し
・ラクオリア創薬と動物用医薬品
・アニマルヘルス市場 世界ランキング
・アニマルヘルス市場のあれこれ
ラクオリア創薬と動物用医薬品
ラクオリア創薬(銘柄コード:4579)は、日本のバイオベンチャーの中でも上市品を抱える数少ない企業の一つです。
冒頭お話ししたガリプラント、エンタイスについては、
・ガリプラント:EP4拮抗薬
主適応症…変形性関節症(犬) 販売国…米、欧
・エンタイス:グレリン受容体作動薬
主適応症…食欲不振(犬) 販売国…米
という具合に主に"ペット向け"の上市薬になります。
また、動物用以外でもヒト向けにはテゴプラザンという胃食道逆流症の上市薬も抱えています。つい最近販売を開始した薬ですので、本格的に売上収益が乗ってくれば、重要な収入源になってくるでしょう。
※HPより(一部加工)
※過去記事より抜粋
銘柄名と銘柄コード | 上市品 | 適用国 | 申請 | 承認 | 販売 | 承認~販売 |
ラクオリア創薬(4579) | ガリプラント | 米国 | 2016/1/26 | 2016/3/22 | 2017/1/25 | 309日 |
欧州 | 2016/2/18 | 2018/1/12 | 2019/4/12 | 455日 | ||
エンタイス | 米国 | 2016/3/23 | 2016/5/18 | 2017/10/16 | 516日 | |
テゴプラザン | 韓国 | 2017/9/4 | 2018/7/6 | 2019/3/1 | 238日 |
※参考パイプライン(記事作成当時:7月11日 説明会資料基準)
銘柄名 コード |
説明 資料 |
時価 総額 (億円) |
研究 開発 (億円) |
個数 | パイプライン |
ラクオリア 創薬(4579) |
URL | 285 | 10.7 | 9 | ・RQ-00000004テゴプラザン(胃食堂逆流症) ・RQ-00000003ジプラシドン(統合失調症) ・RQ-00000007ガリプラント(変形性関節症、自己免疫疾患・アレルギー・がん) ・RQ-00000008EP-4拮抗薬(変形性関節症・自己免疫疾患他、疼痛・炎症) ・RQ-00000009 5-HT4部分作動薬(アルツハイマー病) ・RQ-00317076シクロオキシゲナーゼ-2阻害薬(急性痛) ・選択的ナトリウムチャネル遮断薬(鎮痛・鎮痒) ・RQ-00466479 P2X7受容体拮抗薬(神経障害性疼痛) ・特定のイオンチャンネル(消化器領域) |
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また、ガリプラントとエンタイスの導出先であるエランコ社は、アニマルヘルス企業の中でも大手ですが、つい最近まで事情は少し異なっていました。
それは、もともとの導出先はアラタナ社(Aratana Therapeutics)という企業であり、2019年4月26日にエランコ社が新たな社を買収する形で権利が移ったのです。
※エランコ社リリース(2019年4月26日)
Elanco Announces Agreement to Acquire Aratana Therapeutics; Completes Oncology Development Agreement with VetDC, Creates Specialty Veterinary Business Focus
https://www.elanco.com/news/press-releases/elanco-announces-agreement-to-acquire-aratana-therapeutics
※ラクオリアリリース(2019年5月7日)
エランコ社によるアラタナ社への買収提案に関するお知らせ
https://www.raqualia.co.jp/topics/20190507_003941.html
このリリース自体、より力のある企業に販売先が移ったことでラクオリアには有利に働くと思われます。
そして、昨日独バイエル社がアニマルヘルス事業をエランコに売却。エランコは同分野で2位に浮上することになり、エランコの規模がさらに拡大することになりました。
ラクオリアにとってはありがたい話です。
このような統合話は、アニマルヘルス分野に実にありがちな動きなのですが、それを次にお話していきます。
アニマルヘルス市場 世界ランキング
ここから先ですが、引用する参考資料を基にお話をしていきます。非常にタイムリーでした。この分野を知りたい方はぜひ一読してみてください。
※参考資料 株式会社東レ経営研究所 2019年6月17日
成長続く動物用医薬品市場―新興国ペット需要がけん引―
チーフアナリスト 永井知美氏
https://cs2.toray.co.jp/news/tbr/newsrrs01.nsf/0/C469EC94E892CD314925841C001ADB4A
当記事では「動物用医薬品」と「アニマルヘルス市場」の二つの言葉を使い分けています。正確には、
・アニマルヘルス市場…動物用医薬品と飼料添加剤の合計
というようにくくり方が異なり、当ブログでも使い分けますのでご注意ください。
そして"飼料”という言葉にピンとくる方もいらっしゃったかも知れません。この業界は家畜が対象に入ってきます。ペット向けだけではございません。
むしろ家畜向けのほうがメインです。
下図は2017年の世界のアニマルヘルス市場の内訳ですが、ペット向けが36%に対し、家畜向けが64%にのぼります。
「家畜向け」について具体的なイメージがわかないかもしれませんので、日本を例に薬理作用別の表を使いますと、
こんな形で、ワクチンのほか抗菌剤・抗生物質、殺菌消毒剤、診断用試薬などなど…使われ方は様々です。
豚が病気に罹って、どんどん感染拡大してはまずいわけです。畜産業界の方々がいろいろな努力をして防ごうとしています。
少々脱線してしまいましたが、アニマルヘルス企業のお話に戻りましょう。
2017年ベースの世界のアニマルヘルス企業 売上高ランキングは、
・1位 米ゾエティス
・2位 独ベーリンガーインゲルハイムアニマルヘルス
・3位 米メルク/MSDアニマルヘルス
・4位 米エランコ
(・6位 独バイエルアニマルヘルス)
という形だそうです。米ゾエティス社と言われても「何それ?」だと思います。
このゾエティス社は、2013年に米ファイザー社のアニマルヘルス部門が独立してできた企業です。知られていないかもしれませんが、ファイザー時代から数えると70年近くの歴史を持つそうです。
(ちなみにエランコは米イーライ・リリー社の新規事業として設立された会社)
原点は、1950年にファイザーの研究者が発見した抗生物質「テラマイシン」であり、100種類以上の感染性微生物に有効な画期的新薬でした。
その後も、犬のアレルギー性皮膚炎治療薬「アポキル錠」を開発するなど、大ヒット商品を世に送り出しています。
そして、本日話題のエランコとバイエルについてですが、それぞれ4位と6位に位置しており、これが合併して業界2位になります。
ゾエティス、ベーリンガーインゲルハイム、メルク、エランコの4強時代に突入するのでしょうか。
とても熾烈な争いを予感させる構図になっています。
アニマルヘルス市場のあれこれ
そんなアニマルヘルス市場ですが、これまでも大きな合併・買収がいきなり起こることが良くあります。
背景にあるのは、反トラスト法(日本でいう独占禁止法)です。
そもそもヒト向け医薬品市場で、M&Aによる業界再編が数多く起こっているのですが、アニマルヘルス市場はそのあおりを受けやすい構図になっています。
ようは、メルクなりバイエルなりが別の企業を買収する際、動物用医薬品事業を同時に買収すると、動物用医薬品市場の占有率が過剰に大きくなり、各国の独占禁止法に対応しなければいけない事態が起こります。
ですので、今回の独バイエル社がそうですが、独占禁止法にかからないように、アニマルヘルス事業をバサッと切り落として他社に売却する。というアクションが発生するわけです。
独占禁止法では、実際に合併を断念する事例もありました。2009年3月に発表したメルク(米)とシェリング・ブラウ(米)の合併です。
発表時には全世界で約55億ドルの売り上げを有する世界一の企業が誕生する予定だったのですが、売上が市場の27%以上を占めるに匹敵する金額で、各国の独占禁止法をクリアするには、第三者に譲渡しなければならない事業分野がきわめて多岐にわたったそうです。
結果的に、売上金額の想定はどんどん目減りしていくと予想され、結局はこの統合は実現しませんでした。
実に難しいお話です。
なお、そんなアニマルヘルス市場ですが、実はヒト向け市場よりも成長の伸び率は上回っています。
ヒト向けでは医療費削減の圧力、後発医薬品による売り上げ減など、様々な減少要因がありますが、動物向けではあまりそのようなことが起こりません。
なので、アニマルヘルス市場は隠れた有望市場であるということをまだまだ書きたかったのですが…
記事の長さもそろそろ限界ですので、残念ですが本日はこれで終わりにしたいと思います。
また別の日に続きを書くことにしましょう。ありがとうございました。
おわり