こんにちは。shiroshiroです。
twitterで先に上げているのでご存知の方も多いと思いますが、学会でオレキシンGPCR受容体OX1アンタゴニストHTL-0027772が発表されました。
そーせい 学会 / OX1
Discovery of selective OX1 antagonist HTL0027772 by structure-based drug design
"構造ベースの薬物設計による選択的OX1拮抗薬HTL0027772の発見”8/28 ACS Fall 2019 National Mtg & Expo, Chemistry & WATERでHepのS. J. Bucknell氏が口頭発表。https://t.co/UO002LoFWS https://t.co/KoBLc3dvWL
— Shiroshiro(リハビリ中) (@Shiroshiro4565) September 3, 2019
先日はGLP-1アンタゴニストHTL-0026119が発表されたのですが、今度はOX1です。
オレキシンOX1とOX2と言えばメディチ(Medicxi)社じゃないの?という話ですが、今回の件はメディチとは違います。
他のプロジェクトと混同しないようにしつつ、解説していきましょう。
見出し
オレキシン(orexin)受容体とは
まずオレキシンについてですが、深入りは危険ですので、簡単に書いていきます。
オレキシンのはじまりは1998年。オレキシン受容体に結合する内因性リガンド、Orexin-AとOrexin-Bが発見された時になります。
ポイント
・リガンド(Ligand)…
特定の受容体に、特異的に結合する物質。鍵、特定のカギ穴(受容体)で使える。
・内因性リガンド(Endgenous Ligand)…
生体内で産生され、その生体内の受容体に結合するリガンドのこと。体内由来の物質。
筆者も知らなかったのですが、本件は日本人である櫻井武(さくらい たけし)現筑波大学教授によって発見されました。
櫻井氏は当時34歳。現在は睡眠研究の第一人者として活躍されています。(櫻井研HP:文豪を思わせるような顔写真あり)
そしてOrexin-AとOrexin-Bの相手側、結合する受容体についてはOX1とOX2の二つの受容体が存在します。
さしずめAが1で、Bが2?と思われるかもしれませんが、ここはそうではなく、
・OX1受容体 : オレキシンAの親和性…オレキシンBの50倍高い
・OX2受容体 : オレキシンAとオレキシンB、親和性はほぼ同じ
という具合です。twitterの文章をまるまる使いますが、
過去20年間に様々な拮抗薬(アンタゴニスト)が特定され、2014年に不眠症治療薬としてOX1/OX2デュアル拮抗薬であるスボレキサントが承認。
しかし長年の努力にも関わらず、選択的OX1拮抗薬においてはHigh clearance(体内からの除去スピードが早い)や、乏しいPK特性(薬物動態:血中の濃度etc.)から、臨床に進出することができなかった。
つまり、OX1とOX2をうまく区別できないそうです。スイッチは二つまとめて押すしかできないわけですね。
ちなみにスボレキサント(Suvorexant)ですが、商品名はベルソムラという睡眠薬です。ひょっとしたらご存知の方もいらっしゃるかもしれません。
そして、「オレキシン受容体によって何が起きるのか」という点ですが、
ベルソムラの場合は、覚醒中枢システムを抑え、睡眠状態に移行させる。となっています。
※引用元:MSD Connect ベルソムラ作用機序(櫻井 武教授監修)(HP)
上図はベルソムラの商品説明なわけですが、オレキシンが眠りに大きく関わっているというのは、容易にわかりますね。
しかし副作用もあります。
治験での結果によると254例中53件(20.9%)。傾眠(4.7%)、頭痛(3.9%)、疲労(2.4%)の副作用が発生(参考)とのことで、OX1とOX2を一緒に押しているせいでしょうか?
ではそんな中、Selective OX1 Antagonist(選択的OX1拮抗薬)を開発したHeptaresの発表に移ってみましょう。
選択的OX1拮抗薬HTL-0027772
そーせいHeptaresはこのたび、8/28の ACS Fall 2019 National Mtg & Expo, Chemistry & WATER学会で、選択的OX1拮抗薬HTL-0027772を開発したと発表しました。
Discovery of selective OX1 antagonist HTL0027772 by structure-based drug design
"構造ベースの薬物設計による選択的OX1拮抗薬HTL0027772の発見”
https://plan.core-apps.com/acs_sd2019/abstract/1d53a3bb-6711-479e-b797-2b872d036c5c
Sarah Joanne Bucknell 1, Kirstie A Bennett 1, Giles A Brown 1, John Christopher 1, Miles Congreve 1, Robert M Cooke 1, Gabriella Cseke 1, Andrew S Doré 1, James C Errey 1, Fiona H Marshall 1, Jonathan Stephen Mason 1, Mark Mills 2, Richard Mould 1, Rebecca Nonoo 1, Jayesh C Patel 1, Mathieu Rappas 1, Nigel A Swain 1, Benjamin G Tehan 1
1. Sosei Heptares, Cambridge, United Kingdom
2. Sygnature Discovery Ltd, Nottingham, United Kingdom
背景は上で説明済みなので省略です。そのうえで、
「そーせいHeptaresには、構造決定で使用するために最適化されたサンプル生成を促進するStaR®テクノロジーと呼ばれるコアプラットフォームを有し、長年にわたりオレキシン受容体モジュレーターの発見にSBDDアプローチを追及してきました。」
「その結果、OX1とOX2受容体のオルソステリックサイトには、リガンド結合モードにおいて魅力的な多様性を持っていることが分かった」と表現しています。
ポイント
・オルソステリック(orthosteric)…
活性部位の場所(オルソステリック部位)に直接結合することで、活性部位の活発化 or 不活化させること。(対義語:アロステリック(Allosteric))
・アンタゴニスト(Antagonist)…
拮抗剤(きっこうざい)。神経伝達物質の働きを阻害する薬。スイッチをOFFにするイメージ。(対義語:アゴニスト(Agonist))
・SBDD(Structure Base Drug Discovery)…
構造ベース創薬。結晶構造情報をもとに、結合部位のカギ穴にあうカギ(薬)をデザインする手法。
つまり、OX1とOX2で結合の区別が可能になったということのようです。
そして、これを実現したのが社内に大量にある、リガンド-受容体X線共結晶データによってもたらされているとあります。やはりそーせいならではの強みですね。
Abstractの最後には、
「我々の選択的OX1プログラムは、コカイン中毒のための薬剤をターゲットとする創薬に大きな進展をはたした。」
「リード化合物HTL-0027772の発見に至ったその一連の開発について説明。最適化された薬剤の化学構造と特性が初めて明らかにされる。」
と。かっこいいあおり書いてます。よほどの自信があるということで解釈することにしましょう。
コカイン中毒とナルコレプシー、作動と拮抗
先ほどの締めで書かれていますが、そんな選択的OX1拮抗薬のターゲットは「コカイン中毒」です。
一応そーせいのホームページ上にも元から書かれています。
ではメディチのほうは?と言うとあちらは、アゴニスト(作動薬)でありナルコレプシー(過眠障害)狙いです。
したがって、そーせいのOX1は以下のような構図になります。
・OX1アンタゴニスト(拮抗薬)…
コカイン使用障害、リード化合物開発完了。そーせい自社開発品
・OX1アゴニスト(作動薬)…
ナルコレプシー、創薬フェーズ。メディチ社との合弁事業
なので、本件はメディチ社とは異なります。もう一つのパイプラインです。
そもそも、オレキシン自体が神経学的に非常に複雑なので、このような現象が起こります。
あまり調べていませんが、OX1・OX2周りの関わり合いで行きますと、
・OX1/OX2デュアル拮抗薬:スボレキサント(ベルソムラ)…睡眠薬
・OX1拮抗薬:HTL-0027772…コカイン中毒
・OX1作動薬:メディチと開発中…ナルコレプシー
(・OX1拮抗薬:GSK1059865…アルコール中毒(グラクソスミスクライン))
(・OX2拮抗薬:セルトレキサント…不眠障害、うつ病(ヤンセンファーマ))
他デュアル睡眠薬多数
という具合に作動と拮抗がたくさんあります。
何しろオレキシンの発見以後様々な研究が行われ、"睡眠"と"覚醒"、"食欲"と"代謝"、"ストレス反応"、"報酬"と"中毒"、"鎮痛"といった具合に大変複雑です。(参考文献)
神経系は難しいですね。
これで、いよいよそーせいHeptaresは作動と拮抗、アゴニストとアンタゴニストの並行開発が本格化します。
HTL-0027772もいきなり出てきたわけではなく、前身の研究は私のほうで言及していました。
計算機科学の発表ですが、およそ1年前です。
そーせい 学会 / OX1 / OX2 / CGRP
Using FEP (Free Energy Perturbation) Calculations to estimate relative binding affinities and selectivity for GPCR targets
FEP計算を使用したGPCR標的に対する相対的結合親和性および選択性の推定
2018/5/27-31のICCS2018ポスターでHepのDeflorian氏の発表 pic.twitter.com/dfai96HGiF— Shiroshiro(リハビリ中) (@Shiroshiro4565) July 29, 2018
やはり、なんだかんだ言っていろいろ動いていますね。
9/12のR&D Dayではこの話はしてくれるのでしょうか。話についていけなくなりそうなので、予習が必要かもしれません。
おわり