こんにちは、shiroshiroです。
先週の木曜日にそーせいから非常に重要なIRが発表されました。
2019.11.28 適時開示
COPD治療薬「ウルティブロブリーズヘラー」の中国での国家医療保険償還医薬品リストへの収載に関するお知らせ
https://ssl4.eir-parts.net/doc/4565/tdnet/1774483/00.pdf
個人的にこの「ウルティブロの中国保険収載」というのは、タイミングが分からない、かつ、何年もかかるものと考えていました。
普通は、「最低で3年~5年かかる」そうです。
(引用:承認後の中国保険収載方法と薬価戦略 (元アステラス製薬(中国)有限公司) 正田 豊 氏LINK、HP)
なので、この速さは驚きです。株価に織り込まれているというのも非現実的です。
あまり、中国市場を考察したこともありませんでしたので、これを機に中国市場を考えていきたいと思います。
見出し
IRの中身と基本的な情報は
まずは、IRの文章からハイライトを並べます。
ハイライト
・COPD治療薬ウルティブロ®ブリーズヘラー®が保険収載。
・販売(19年3月)から約8ヶ月で保険適用に。
・マイルストン関連は無し
内容としては大変シンプルです。
大気汚染の深刻な中国で、「COPD(慢性閉塞性肺疾患)を治療するウルティブロが保険適用された」というのはとてもいい話しと思います。
ではすこし中国に関する基本的な情報をアップデートしていきましょう。
まず、「中国の人口」について、
中国の人口
・総人口:13億9538万人(2018年)
(内男性:7億1351万人(51.1%)、女性:6億8187万人(48.9%)
・都市人口:8億3137万人
・農村人口:5億6401万人
引用元:中国国家統計局(http://data.stats.gov.cn/easyquery.htm?cn=C01)
都市人口は農村人口をはるかに上回っています。
人数がほぼ同数だったのは2010年頃まででしたので、そこから一気に変わりました。
続いて、「大気汚染の現状」について。
特に北京オリンピックのころに大気汚染について非常に騒がれていましたが、その後日本ではあまり報道がありません。
大気汚染はその後どうなったでしょうか?
中国の大気汚染
【2013年~2017年全国74都市の大気汚染状況】
・2013年:72μg/m3
・2014年:64μg/m3
・2015年:55μg/m3
・2016年:50μg/m3
・2017年:47μg/m3
引用元:日本 環境省(LINK)。大元:中国生態環境部「中国環境状況広報」
大元が中国の生態環境部からの情報で、信じるか信じないかの話は置いていて、図にすると…
良くなっています。
個人レベルで確認しても、過去に比べるとよくなったというコメントがあるので、改善傾向にあるのでしょう。
ちなみにですが、現在の大気汚染状況というのもオンラインで見ることが出来ます。
The world air quality project
https://aqicn.org/map/asia/jp/
次に、「中国の医療市場」について。
中国では経済発展とともに医療制度の発展も急速です。
ここでは医療機器は除外し、医薬品に限定しますが、どちらでも市場は右肩上がりに成長中。
2017年時点で、1,209億US$(日本円で約13兆円)にまで到達しています。
※引用元:経済産業相カントリーレポートLINK
いわずもがな、絶好調というやつです。
中国のCOPD市場は
そーせいグループのIR文では、中国のCOPDについて次のように書いています。
COPD は中国での死亡原因の第 4 位となっており(1)、患者数がおよそ 1 億人(2)におよぶ 公衆衛生上の大きな問題となっています。
1 http://www.nhc.gov.cn.
2 Wang C, Xu J, Yang L, et al. Lancet 2018; 391:1706–17.
文献(1)については、国家衛生健康委員会のホームページです。
どのデータを拾ったのかわかりませんが、おそらく次のデータに近いものでしょう。
※引用元:SSRI 中国医薬事情2018
悪性腫瘍・心疾患・脳血管疾患に次ぐ死亡率の高さです。
では、(2)「患者数1億人」として引用している文献はと言うと。(和訳ニュース)
2015年の20歳以上の中国人におけるCOPD患者数は9,990万人。
全体のCOPD有病率は8.6%という研究結果だそうです。
そこまで大きい市場となると、「中国のCOPD市場でどれほどなの?」という疑問が出ると思います。
ただ、残念ながらそこまでの情報は探し出せませんでした。
特定の疾患の市場ともなると、専門のリサーチコンサルティングの有料情報に頼るしかなさそうです。
そうは言えども、いろいろと調べる中で面白い情報が出てくるのも事実で、
たとえば、中国医師にアンケートを取ったアンメットニーズのトップ3にCOPDが入ってきます。
中国 n=10,285 | 新薬の登場希望 | 医師診療比率 |
---|---|---|
1.高血圧症 | 27% | 71% |
2.糖尿病 | 22% | 68% |
3.COPD | 22% | 44% |
4.脂質異常症(高脂血症) | 19% | 55% |
5.脳梗塞 | 18% | 45% |
6.痛風/高尿酸血症 | 15% | 37% |
7.気管支喘息 | 15% | 31% |
8.高トリグリセリド血症 | 14% | 54% |
9.慢性心不全 | 13% | 28% |
10.便秘症 | 13% | 40% |
※引用元:SSRI社会情報サービス「2019年11月18日 中国医師全体のアンメットニーズトップ3は高血圧症、糖尿病、COPDの生活習慣病」より
今回保険収載された新薬が大きな期待を集めているでしょう。
そして、やはり日本ではこのランキングの順位が全く異なります。
日本 n=20,090 | 新薬の登場希望 | 医師診療比率 |
---|---|---|
1.認知症 | 14% | 35% |
2.季節性アレルギー性鼻炎・花粉症(直近1年間) | 13% | 47% |
3.認知症うちアルツハイマー型認知症 | 13% | 34% |
4.通年性アレルギー性鼻炎 | 12% | 38% |
5.敗血症 | 11% | 26% |
6.高血圧症 | 8% | 63% |
7.糖尿病 | 8% | 57% |
8.うつ病・うつ状態 | 8% | 30% |
9.アトピー性皮膚炎 | 8% | 25% |
10.COPD(慢性閉塞性肺疾患) | 8% | 34% |
社会環境を背景に、求められているものがいかに異なるか、これだけ見ても非常によくわかります。
ではそれに対して、「中国市場に参加している企業」を確認していきましょう。
ウルティブロを持つノバルティスは1987年に中国企業に参入しました。
ちょうどグラクソ・スミスクラインと同時期ですが、他の大手企業も90年代に続々と参戦しています。
※引用元:経済産業相カントリーレポートLINK
そうなると、当然ですが市場競争が始まります。
先ほどアンメットニーズの情報で紹介したSSRI社会情報サービスさんですが、それ以外にも面白い記事がいくつもあります。
一部紹介させていただきますと、このような記事が。
・2019年02月27日 PatientsMap 2018中国版の第2弾分析 診療科別メーカーカバーランキング発表
https://www.ssri.com/press_release/2019/02/27/20190227/
「メーカーが各診療科の医師に対してどれだけ訪問をして、認知されているのか」という調査です。
各メーカーのMR(※)の各診療科別訪問ランキングですが、
(※MR:Medical Representative : 医薬情報担当者 …
医薬品の品質・有効性、安全性などの情報の提供を主業務として行う者を指す。
ざっくりいうと医療品業界の営業。)
循環器科は、アストラゼネカ、ファイザー、バイエル、サノフィ、ノバルティスの順位のようです。
正直シェアが見たいのですが、そこは少し無理ですのでご容赦ください。
・2016年09月06日 中国におけるCOPD市場調査の結果を発表
https://www.ssri.com/press_release/2016/09/06/20160906/
開発中の新薬の認知状況に関するアンケートです。
2016年の段階では、
ストリベルディ(LABA:べーリンガー・インゲルハイム)
ビランテロール(LABA:グラクソ・スミスクライン)
ロフルミラスト(経口ホスホジエステラーゼ4阻害薬:アストラゼネカ)
ウルティブロ(LABA・LAMA:ノバルティス)
の順位でした。果たして3年後の現在はどうかという所です。
その他ボリュームの都合上、カットしたモノも載せておきたいと思います。
コメントを加えましたが、気になりましたら確認してみてください。
・2018年07月05日 「PatientsMap 2018中国版」MR訪問のトップ15社を発表
https://www.ssri.com/press_release/2018/07/05/20180705/
上記の診療科別でないバージョン
・2019年06月19日 中国医薬事情レポート2018版をリリース
https://www.ssri.com/press_release/2019/06/19/20180619/
中国の制度、病院のしくみ、病院数、医療費などを解説。統計データメイン。
※要会員登録
中国でのライバル薬は
では、「中国でのライバル薬」を見ていきましょう。
今回のウルティブロの保険収載が実現したことで、中国市場のマップがどのように変わるでしょうか。
まずは、「中国市場で保険登録されている医薬品」を確認していきます。
2019年11月28日の発表の段階でリリースされた、保険収載一覧をもとに調べていきました。
2019.11.28
国家医保局、人力资源社会保障部印发2019年国家医保谈判准入药品名单
国民医療保険局と人事・社会保障省は、2019年の国民医療保険交渉許可薬リストを印刷して公開しています(google翻訳)
http://www.nhsa.gov.cn/art/2019/11/28/art_14_2052.html
この中の添付資料に存在する「2.西药部分.pdf(西洋医学セクション.pdf)」と言う部分に含まれています。
かなり大変だったのですが…、だいたい下のような格好に。もし誤記がありましたらご容赦ください。
重要なものは黄色に塗りつぶしました。
アストラゼネカのシムビコート、グラクソ・スミスクラインのアドエア、ベーリンガー・インゲルハイムのスピリーバこのあたりが、ICS+LABA薬、またはLAMA単剤です。
ノバルティスはオンブレスで使われるインダカテロール(LABA)が入っていますね。
このようにして見ますと、保険収載されている医薬品は、海外では特許が切れていたり、売り上げがピークを過ぎたものばかりです。
※もし売り上げを確認したい場合は、下のリンクで確認できます。
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【特集】そーせい:シーブリ・ウルティブロ・QVM149まとめ
こんにちは。shiroshiroです。 そーせいグループにおける、シーブリ・ウルティブロ・QVM149の存在は、毎年安定したロイヤリティ収入をもたらす点で大変重要なカテゴリになります。 なにかしらの記 ...
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そして、今回2019年11月28日分で新たに登録されるのが、
・アノーロ(GSK)…LAMA・LABA合剤 1日1回
・ウルティブロ(Novartis)…LAMA・LABA合剤 1日1回
・ゾレア(Novartis)…ヒト抗IgEモノクローナル抗体 喘息
2019.11.28
国家医保局 人力资源社会保障部关于将2019年谈判药品纳入《国家基本医疗保险、工伤保险和生育保险药品目录》乙类范围的通知
国民基本医療保険、労働災害保険、および母性保険の薬物カタログのカテゴリーBに2019年に交渉された薬物を含めることに関する、国家医療保険局の人的資源および社会保障省の通知(google翻訳)
http://www.nhsa.gov.cn/art/2019/11/28/art_37_2050.html
となりますが、もうお分かりと思いますように、初のLAMA・LABA合剤として登録されました。
他のライバルにはありません。もちろんLAMA・LABA合剤を持っていないわけではありません。
ただ、結果として置いていかれてしまいました。
未収載品
【アストラゼネカ】
・エクリラ/Tudorza…LAMA単剤 1日2回
・Duaklirジェヌエア…LAMA/LABA合剤 1日2吸入を2回
・ビベスピ エアロスフィア…LAMA/LABA合剤 1日2吸入を2回
【ベーリンガー・インゲルハイム】
・スピオルト…LAMA/LABA合剤
そして、ノバルティスにとってさらに都合のいいことがもう一つ。
ウルティブロのほかにもゾレアが登録されたことです。
ゾレア(オマリズマブ)は、ヒト抗IgEモノクローナル抗体の製品で喘息向けです。
非常に息の長い医薬品なのですが、喘息適用をされたことで2018年についに売上1000億円に到達しました。(下の赤線です)
ウルティブロとゾレア。
この2つが保険適用されたいま、中国ノバルティスの循環器部門はこれ以上ないチャンスを迎えているでしょう。
実際、当時見落としていたのですが、今年5月のノバルティスの資料では、
「迅速かつ広範にわたる販促に資本を投じることで、中国は二けた成長を期待している。」(赤線)
ですので、ノバルティスもこれを狙っていたわけですね。
ぜひウルティブロの販売に全力を投じてほしいです。(あとゾレアも)
ついでに、唯一見つかったアストラゼネカのパルミコート、シムビコートの売上に関する情報を一つ。
リンクの記事の内容によりますと、
・パルミコート(ICS)中国売上:2014年4.85億ドル、2015年5.70億ドル
・シムビコート(ICS+LABA)中国売上:2014年1.24億ドル、2016年1.56億ドル
だそうです。パルミコートすごい。
ノバルティスは牙城を崩せるかが最大の焦点です。
LAMA・LABA合剤のアノーロもライバルですが、2013年に贈賄事件をやったGSKに負けないでほしいです。
株価は無反応ですが、ジーエヌアイのアイスーリュイのように2年もすれば嫌でも数字が出てきます。
その時には同じようにQVM149も売上が入ってきます。
ダブルで現金収入が入ってくるわけですね。
合算したら将来何十億円の売上になるでしょうか。
まだ売上がフルに成長するには数年かかるでしょう。ただの皮算用なんですが、でもしてしまいたくなる…
それだけ魅了的なのですから致しかたなし。
莫大な現金収入という土台が完成し、そーせいの更なる飛躍を期待するところで、今回も終わりにしたいと思います。
もし、この記事を見て「そーせい面白そう!」と思い始めた方は…
下にありますnote「長期投資で「そーせい」をおすすめする同人誌(初級編)」も見て頂けたら幸いです。
それではありがとうございました。
おわり